近年、気候変動が進み、「ゲリラ豪雨」といった言葉が生まれるほど極端な気象を目にする機会が増えている。今後、さらなる気象の極端化、さらにそれに伴う多雷化の時代を見据え、枡田俊久は雷を制御し、人や設備への落雷被害をなくす技術の研究を行っている。
NTTグループでは全国各地にさまざまな通信設備を持ち、そこへの落雷被害を低減できればメリットは大きい。同時にグループだけではなく、電力や交通など各種インフラ施設やあるいはイベントやスポーツ、農作業中の人など、さまざまな箇所に毎年落雷被害は発生している。もし意図的に雷を安全な場所へ誘い落とすことができれば、意図せぬ落雷被害を防ぐことができる。
「私はドローンを活用して落雷を安全な場所に導く技術や落雷自体を未然に防ぐ技術の開発をめざしています」
枡田によれば、ドローンを飛ばして落雷を制御しようという試みは他に行われていないのではないかという。枡田自身の研究も宇宙環境エネルギー研究所のスタートと同時に始まっており、まだ緒についたばかりだ。ドローンによる落雷制御のために、今後成し遂げなければならないことは、どのようなものがあるのだろうか。
無人航空機(ドローン)によって
落雷を制御する
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宇宙環境エネルギー研究所
枡田 俊久
01.意図した場所へ雷を誘導する
02.誰も手をつけてないことに挑戦
ドローンを飛ばして、雷をそこへ誘うためには、ハード・ソフトの両面で実現しなければならない技術がいくつもある。まずはハード面では、ドローンに高い耐雷性があり、落下リスクのないものにしなければならない。さらに、悪天候の中高さ数kmの上空まで行って帰ってこられるだけの十分な飛行性能を持たせることも重要だ。ソフト面でも、雷雲の発生を予測する技術、その高高度へドローンを飛ばし最適配置する技術など、クリアする壁は多く、そして高い。
「当研究所の所長である前田の『誰も手をつけていない新しいことに挑戦していこう』という想いから、今回の挑戦が始まりました。ドローンメーカーとの連携や大学の研究機関との議論などは始まっていますが、まだまだどのような課題が出てくるかを探っているような段階で、先は長いなと感じています。誰もやったことのないことにチャレンジするんだと、すごくワクワクしています」
そんな枡田のチャレンジは、実は落雷をドローンに接続した導線経由で、安全な場所に誘うだけにとどまってはいない。雷の電気エネルギーを抽出・保存する技術にも挑んでいるのだ。
03.雷のエネルギーを利用する
「実は一発の雷から取れる電気エネルギー量はそれほど多くないんです」と枡田は話す。試算法はいろいろあるが、雷一発では一般家庭の1カ月分の電気量も賄えないのではないかという試算すらある。
しかし今後、気象の極端化が進み、もし雷が今以上に多発することになれば、落雷被害をなくすことができるだけで、制御技術には大きな意味がある。そして一発ずつは少ないエネルギー量になるかもしれないが、それを積み重ねていけば、我々が用いる電気エネルギーの一部を賄うことだってできるようになるだろう。
「この研究によって、施設への落雷被害がなくせるだろうかとか、将来の実用シーンを想像することもあります。宇宙環境エネルギー研究所では、数十年先を見据えた長いスパンで人の命や環境の持続可能性に貢献できる技術の開発をめざしています。一見、荒唐無稽なチャレンジでも、そこに挑ませてもらえる研究所ですごいなと思いますね」
研究テーマに対して強い想いを抱くことができれば、本研究所で挑戦的な研究に向き合うことができると、枡田ら宇宙環境エネルギー研究所の研究者たちは話す。ここでは、少し先の未来への熱い想い、そして研究への熱意を胸に、さまざまな挑戦が進められている。
- KEY WORD
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- CO2変換・応用技術(化学的・生物学的手法)
- 環境負荷低減・応用技術
- 核融合炉の最適オペレーション技術
- 宇宙太陽光発電技術
- 地球再生シミュレーション技術
- 地球情報分析技術
- 気候・気象予測技術
- 誘雷・雷充電技術
- 電磁バリア技術(宇宙線、EMP)
- 次世代エネルギー供給技術
- 仮想エネルギー需給制御技術
- ESG統合予測シミュレーション技術
- 企業価値の未来評価技術
地球規模の社会課題の解決に向け、
地球環境への影響を±ゼロにする環境負荷ゼロ技術と、
地球環境変化による影響を受容する環境適応技術に取り組む
宇宙環境エネルギー研究所では、NTTグループの環境エネルギービジョンである環境負荷ゼロの実現に向け、核融合や宇宙太陽光発電など次世代エネルギー技術とレジリエントな環境適応を可能にする技術の創出に取り組んでいます。近年の気象極端化による巨大災害やパンデミック等の危機事象へのプロアクティブな対応のためには、地球を含む宇宙環境という大きな視点から科学技術だけでなく気象や資源の循環、生物多様性においてダイナミックなイノベーションを起こす必要があります。このため、次世代の圧倒的にクリーンなエネルギーの実現と活用、CO2変換を含むサステナブル技術、プロアクティブなESG経営・環境適応という観点からのイノベーションにより、地球環境の再生と持続可能かつ包摂的な社会の実現をめざしていきます。
※記事本文中の研究所名や社員の所属組織などは取材時のものであり、
旧研究所名の場合がございます。