IOWN構想における柱の一つとなるAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)。ネットワークから端末まで、エンド・ツー・エンドにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現する技術の適用拡大と社会浸透に向け、NTT研究所の各所が先端的な研究を重ねている。伊達拓紀が所属するネットワークイノベーションセンタ(NIC)と中川雅弘が所属するネットワークサービスシステム研究所(NS研)も、連携しながら提供が開始されたAPNの適用拡大をめざしている。
「私たちはAPNをさらに拡大していくための次期光伝送ネットワークの実現に向けて、通信トラヒック増加に対応する高速化・大容量化、さらにさまざまなシステムやデバイスを光のまま接続する光インタフェースのオープン化、光ネットワークの提供する付加価値の向上、そしてこれらを安定的・ 効率的に保守運用するための運用高度化技術などに取り組んでいます。私たちNIC の方が比較的すぐに導入し得る技術、NS研はもう少し先を見据えた技術について検討を重ねているような役割分担があり、実用化技術がシームレスに将来につながっていくよう連携しています」(伊達)
「数年前のIOWN構想発表段階では、それこそ我々研究者でさえも『本当に実現するのだろうか』と半信半疑な部分もありました。それが、研究開発がどんどん加速し、APNサービスがすでに提供されています。まずは低遅延・高品質な通信環境が利用可能になったわけですが、今後は更なる大容量化・省電力化を推し進める必要があります。APNの進化に向けて、私たちはそれぞれの立場から研究開発を進めています」(中川)
新時代の
ネットワークAPNの実用化加速
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ネットワークイノベーションセンタ
ネットワークサービスシステム研究所
伊達 拓紀、中川 雅弘
01.APN適用拡大に向けて
02.革新デバイスの実環境導入へ
これまでの光通信は、端末の手前で光信号から電気信号に変換されて処理されてきたが、APNはその名の通り、すべての通信が光信号のままに行われるネットワークだ。IOWNにおけるAPNでは、これまで電子デバイスが担っていた処理を可能な限り光領域で実施する革新デバイスが大きなカギを握る。
「今後、APNの更なる大容量化・省電力化を実現していくためには、さまざまな革新デバイスの組み込み方が重要なポイントとなります。例えば、現在我々は波長変換デバイスに着目してAPNへの適用性を検討しています。これまで光のまま波長を変えるというのは非常に難しいと考えられてきましたが、先端集積デバイス研究所の方々が長く研究してきた成果によって実現性が高まっていると言えます。今はNS研で、波長変換デバイスを活用したネットワーク容量拡大方法やネットワーク運用の柔軟化方法を確立しているところです」(中川)
「私たちは実用化を見据えて、適用先を想定した最新技術・革新デバイスの目利き、それらを組み上げたシステム設計、その実証試験など、さらにもう一つ実用に近い段階の検討を行っています。ネットワークには限りないほどの多くの技術、デバイスが投入されています。それらがスムーズに連携し、想定した動作を安定的に継続できるかが重要となります。実際にネットワークを運用するNTTグループ各社とも密に連携し、蓄積された運用ノウハウや実環境からの大規模収集データから得られる知見を機械学習・AIなども用いて活用することで、この実用化の壁に挑んでいます」(伊達)
03.想定サービスから
理想のネットワークを構築する
APNの適用拡大が実現すれば、これまで以上に大規模通信を容易にかつ安定的に利用することができる。サービスを通じて通信品質を体感する消費者には、ネットワークの進化は直感的にはわかりづらいのではないかという疑問も浮かぶが、伊達はそうはならないのではないかと未来を予想する。
「APNは社会に変革をもたらすだろうと思います。例えば、遠隔医療、eスポーツ、リモートプロダクション(遠隔地でのライブ中継映像作成)などをより手軽に利用できる基盤ともなり、それらがサービス面でも社会的変革を生み出して、私たちの身近なところでの実感をもたらしてくれるでしょう。さらには社会になくてはならない情報通信の根幹を、大幅に低消費電力化することで、社会全体の環境負荷低減にも大きく貢献することができます」(伊達)
「これまではまず要素技術を確立することに力を注ぐフェイズだったと思います。しかしAPNサービスが開始された今は、現在のネットワークからのシームレスな進化を意識しつつ、将来的な理想解を検討しなければなりません。その中では、ネットワークの使用方法を考慮することが必要不可欠です。ユーザの使い方を想定できなければ、どのようなネットワークが理想的なのかを考えることもできないからです。IOWN Global Forumでは具体的なユースケースの想定も進んでいますから、新しい社会の実現に向けて、我々もさらに力を込めて検討を進めていきたいと思っています」(中川)
- KEY WORD
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- オールフォトニクス・ネットワーク(APN)
- デジタルツインコンピューティング(DTC)
- 仮想化技術(NFV)
- コグニティブ・ファウンデーション(CF)
- 機能別専用ネットワーク(FDN)
- フォトニックノードシステム
- オープンソースソフトウェア
- ネットワークAI
- 自己進化型ゼロタッチオペレーション
- ネットワークセキュリティ
- クラウドコンピューティング
- ネットワークアーキテクチャ・標準化
- コミュニケーション基盤・サービス制御基盤
- 移動固定融合
- オープン無線アクセスネットワーク(O-RAN)
多様なパートナーとのコラボレーションを支える
革新的なネットワーク基盤の確立に向けた研究開発を推進
スマートフォンや高速モバイル端末の利用や4K/8K(高精細映像)の普及などに伴うトラヒックの急激な増加、すべてのモノがインターネットに接続されるIoTの進展、社会インフラのさらなるICT化やネットワークの社会インフラ化により、ビジネス分野でのネットワークの活用をさらに加速させる必要があります。ネットワークイノベーションセンタでは、IOWN実現によるB2B2Xビジネスモデル拡大に向けて、多様なパートナーとのコラボレーションを支えるネットワーク基盤の確立に向けた研究開発を推進しています。
- KEY WORD
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- ネットワークアーキテクチャ
- ネットワークAI
- 光パス設計・制御
- オールフォトニクス・ネットワーク(APN)
- エッジコンピューティング基盤
- コグニティブ・ファウンデーション(CF)
- 通信トラヒックデータ分析
- 機械学習・データ分析・最適化
- スマート農業
- 通信サービス品質(QoS)・体感品質(QoE)評価
- スマートシティ
- 自己進化型ゼロタッチオペレーション
- コネクティッドカー
- インテントベース・オペレーション
- 衛星測位システム(GNSS)
将来の情報通信ネットワーク基盤の実現に向けた
アーキテクチャと要素技術の研究開発を推進
ネットワークサービスシステム研究所では、IOWN構想の実現に向け、光を中心とした革新的技術を活用し、従来のインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能なネットワーク・情報処理基盤を実現するアーキテクチャおよび通信トラヒック・品質・オペレーション技術の研究開発を行っています。さまざまな専門性を持つ研究者により、研究戦略の立案から基盤的な研究開発まで、幅広い活動を行いNTTおよび日本の情報通信産業の発展に貢献します。
※記事本文中の研究所名や社員の所属組織などは取材時のものであり、
旧研究所名の場合がございます。